中国文字には3000年以上の記録史がありますが、その最古の確かな証拠は、正体が知られないまま長年薬局で売られていました。河南省安陽市近郊の殷墟は、殷王朝後期最後の都であり、東アジア最古の完成された文字体系と確認される甲骨文字の出土地です。ユネスコは2006年、同時代資料で実在が裏づけられる中国最古の王朝を示す考古遺跡であり、中国の王陵制度の源流でもあるとして世界遺産に登録しました。
近代の再発見は思いがけない病から始まりました。1899年、清朝の官僚・学者で国子監祭酒だった王懿栄は、マラリアにかかり漢方薬の「竜骨」を処方されました。広く伝わる話では、粉になる前の骨片に刻まれた見慣れない記号に気づき、劉鶚とともに古代文字ではないかと研究を始めます。薬商は産地を明かしませんでしたが、羅振玉が調査を重ね、1908年に安陽郊外の殷墟と呼ばれる畑へたどり着きました。そこが後世の文献で半ば伝説的に語られていた殷の都だと特定されたのです。