奈良を有名な鹿の公園や東側の大寺院だけで考えると、元興寺は見落としやすい場所かもしれません。境内は市中心部の南にある旧商人町、ならまちに位置し、細い路地や町家が大きな寺院とは異なる景色をつくります。元興寺の公式沿革は、飛鳥時代に創建された初期仏教寺院、飛鳥寺を源流として伝えています。710年に都が平城京へ移ると、寺も奈良に移転し、元興寺と呼ばれるようになりました。
古代の寺院は、現在残る境内よりもはるかに大きな規模を持っていました。政治の変化や火災、寺院領の衰退などが何世紀にもわたって建物と敷地を変えてきました。現在の元興寺は、8世紀の伽藍全体がそのまま残った場所ではありません。長い歴史の一部を建物や収蔵品に伝える、歴史的な境内の一角です。この違いを知って歩くと、今見える小さな寺院が、古代の伽藍の完全な復元ではなく、喪失と変化を経て続いてきた場所だとわかります。